ベンチのためのテーブル
Kichijoji, Tokyo, 2022,2023
吉祥寺シアターには、通りに面した25mほどの長いベンチがあり、いつも人が座っています。座るといっても長居するのではなく、多くの人は5分程度座ってすぐどこかへ行ってしまう、目的地というより通過点のような風通しの良いベンチです。
1年前、電話演劇のための美術の依頼をうけたとき、ベンチ周りに電話機を4台設置するということだけ決まっていました。電話機の配置検討をするうちに「日常的に使っている人が、電話をかけたくもなるし、電話をかけずにいつも通りベンチを使えるもの」にしたいと思いました。受話器のある電話機は、その形を見ると、片耳に当てて声を聞き、話すものだと分かります。一方、私たちの使うスマホは必ずしも電話をすること=受話器を持つことではありません。人々はお皿を洗いながら、洗濯物を干しながら、手放しに人と電話ができる。そうすると、わざわざ受話器を持って電話をするという行為は、電話をする人とそうでない人を切り分けます。だから、仰々しく電話ボックスのような設えをつくると、気軽に座ることのできるいつものベンチの性質が損なわれてしまうと思いました。
そこで、いつも通りベンチを使えるのはもちろん、いままでの自由な使われ方を助長する「テーブル」をデザインしました。ベンチには普段、コンビニで買ったものを食べる人や、ただ座っている人、帰り道に数人で話し込むひとたちなどがいます。そこに「テーブル」が加わることで、絵を描いたり、宿題をしたり、PCを少し触ったりできます。「テーブル」には、電話機のための屋根がかけられ、屋根を支える丸太の樹種は1台ずつ変わっています。
ベンチとテーブルが出会うとき、日常を送る人と、受話器から物語を聞いている人が隣り合って座ることができる。そんな風景をつくれたらと思います。
美術・空間デザイン 福留愛
道とベンチの間にちょうど良いサイズのテーブルの大きさを実寸で検討した。
2022年 ベンチのためのPLAYlist
【日時】2022年 3月1日 (火)〜 3月28日(月)
9:00~昼のプレイリスト/19:00~夜のプレイリスト
【会場】吉祥寺シアター 前のベンチ
【テキスト 】
(昼) 犬飼勝哉・瀬尾夏美・武本拓也・中島梓織
(夜) 大崎清夏・五所純子・佐々木中・得地弘基
【出演 】 安藤朋子・伊藤新・キヨスヨネスク・清水穂奈美
【構成・演出】萩原雄太
【美術・空間デザイン】福留愛・iii architects
【電話制作 】立原充泰
【 制作・運営 】吉田恭大(吉祥寺シアター)
2023年ベンチのためのPLAYlist
【日時】2023年3月29日(水曜日)から2023年4月16日(日曜日)
【テキスト】青柳菜摘, 笠木泉, 谷川由里子, 鳥山フキ, ピンク地底人3号, humunus
【出演】伊藤新, 笠木泉, 佐藤朋子, 清水穂奈美, 矢野昌幸, 油井文寧
【スタッフ】
構成・演出:萩原雄太
美術・空間デザイン:福留愛
電話制作:立原充泰
制作・運営:吉田恭大(吉祥寺シアター)
主催:吉祥寺シアター(武蔵野文化生涯学習事業団)