itinerant tea room
Koenji,Tokyo 2021
店主たちは実店舗を持たず、全国を旅しながらその土地の食材をつかった料理をふるまうことによって喫茶店を営んできた。活動が広がっていく中で、土地固有のものや人とのつながりが増えていき、それらが帰る場所として実店舗を高円寺にもつことにした。
飲食店は客席や厨房といった行為が限定される静的な場所と、人が移動する動的な場所のほぼ2種類でつくられる。客も店員も静的な場所に留まることが多く、客は一度席に案内されると、お手洗い以外のタイミングで立ち上がらないし、店員は多くの時間厨房に立ち続ける。40平米という小さな空間を、客と店員の空間に分けてしまうと、それぞれの空間が窮屈になると思った。
そこで、<客ー店員>という属性に合わせて空間を分けるのではなく、<静的な空間ー動的な空間>という行為の性質で空間を分けてみる。それぞれの場所から他の人たちが少し見えつつも距離をとれるように壁を配置していくことで、一人で本を読む人、カップルでデートする人、店主に会いに来た人、厨房で仕込みをする人、それぞれの焦点がずれていく。
静的な空間と動的な空間の間に立つ壁が既存に頼らず、互いを支え合った結果、壁がひとつながりになった。天井からわずかに距離をとった壁には、対照的な空間同士が関係を持つように開口が開けられ、あるところではカウンターになり、あるところでは料理の提供される窓となり、はたまた人が身を屈めて出入りする門にもなる。
壁によって囲われた動的な空間では、店主も客も関係なく、全ての人が動いている。この動き自体が層となることで、壁の中に風景の厚みを作り出し、静的な空間に奥行きを生んだ。厨房で料理を作っていると、今来たばかりのお客さんが門をくぐる姿が目の端に見え、その奥では本を読むお客さんの手元が見える。客席に座ると、カウンターで店主と会話する客の足元が見えて、目線を上げると、店主が料理を作っている背中が見える。こうして、つかず離れずの関係が作り出す多焦点な場は、真ん中の大きな空白を介して、壁にまつわる一つの記憶となる。